オフィスの汗対策、臭いが気になるときは?臭気判定士が考える夏のセルフケア

年々、夏の暑さがきびしくなっている気がします。暑くなるのは早く、涼しくなるのは遅い。朝であっても、日差しの強さにうんざりすることが多々あります。

そんな季節に、なにかと気になってくるのが汗や臭いです。筆者は以前、屋外で作業をする仕事をしていました。炎天下の作業を終えて事務所に戻るたび、シャツは汗でぐっしょりで汗臭さが気になっていました。

みなさんも「自分、臭っていないだろうか」と、ひやりとすることはないでしょうか。

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汗は止められない

まず、大前提から確認しておきます。汗は止められません。
私たちの体は、体温が上がっても汗や皮膚温度が上昇することで体温が外へ逃げる仕組みを持っています。*1

つまり汗は、体を守るために欠かせないもの。完全に止めてしまうことは、そもそもできない相談なのです。

では、臭いの正体は何なのでしょうか。
実は、汗自体はほぼ無臭で、放置された汗を皮膚の表面の細菌が分解するときに生じるガスが、汗臭さの元になります(図1)。*2

図1:汗の臭いの原因と可能性
出所)東海大学「汗はなぜ臭くなる?原因と対策をわかりやすく解説」
https://www.u-tokai.ac.jp/ud-science/news/15482/

つまり、問題は汗をかくことそのものではなく、かいた汗をそのままにしておくことだということになります。

臭気判定士の視点で考えてみる

ここで少し、自己紹介をさせてください。筆者は「臭気判定士」という資格を持っています。

臭気判定士は、臭気環境分野で初めての国家資格です。*3
工場や事業所から出る臭いが、規制の基準に照らしてどうか、といったことを判断するための資格です。免状を持っている人は、令和6年3月31日時点で、全国で3,352人でした。*4

ちなみに、医師は、届出ベースで347,772人(令和6年12月31日現在)です。*5
宅地建物取引士登録者数は、1,211,760人(令和6年度)にのぼります。*6
単純に数字だけ比較すると、臭気判定士がかなりの少数派だということは伝わるのではないでしょうか。

体臭を診断する資格ではありませんが、臭いに関する仕事をしてきた立場から、日常の臭い対策に応用できそうな考え方をいくつかお話しできればと思います。

この仕事を通じて、感覚的にはわかっていたことを、あらためて突きつけられたことがあります。臭いには慣れる、ということです。

皆さんも経験的に感じていることではないでしょうか。

同じ香りをずっと嗅ぎ続けると、その香りを感じなくなります。これは、嗅覚における順応と呼ばれるはたらきです。*7

臭いを扱う現場では、これは避けて通れない性質です。同じ臭いを嗅ぎ続けると鼻のほうが慣れてしまい、強さがわからなくなっていきます。だからこそ、こまめに新鮮な空気をはさんで鼻をリセットしたり、複数の人で確かめたりと、慣れを前提にした工夫が欠かせません。

そして、この「慣れ」こそが、汗の臭いのこわさの正体だと、筆者は考えています。自分の体は、一日中、自分の臭いがまとわりついています。生まれてからずっと、自分の臭いと一緒に過ごしてきたのだから、慣れてしまって当たり前です。

他人の車や家の臭いには気づくのに、自分の車や家の臭いには気づかない、というのと同じことです。自分の体臭にいちばん気づきにくいのは、ほかでもない自分自身なのです。

大汗をかいたときは、むしろましなのかもしれません。「これはまずいぞ」と自分でも意識して、着替えるなどの対策をするからです。
一方で、たいして汗をかいていないつもりの日は、何の対策もしていません。もしかしたら、自分では気づかないうちに、周りに「臭うな」と思われている可能性もあります。

だから、「自分は臭っていない」という感覚は、残念ながらあまり当てになりません。むしろ「気づけていないかもしれない」という前提に立ったほうが、対策としては現実的です。

また、悲しいことに、嗅覚は加齢とともに衰えます。

研究では、嗅覚同定能力は加齢とともに向上し、10歳代で最大となった後、一定の機能を維持し、男性では60歳代から、女性では70歳代から低下することが報告されています。*8

このような性質があるため、臭気判定士は、定期的に嗅覚検査を受ける必要があります。*9
筆者もこれまでに何度か検査を受けていますが、ここ数年、特定の臭いを弱く感じるようになりました。
嗅覚低下による日常生活の支障度は、他の感覚と比べて高くありません。*8
実際、筆者も日常生活で困ったことはなく、検査を受けて初めて嗅覚の衰えに気が付きました。
これらのことを踏まえると、臭いのケアは自分の感覚に頼りすぎないことがポイントになります。

オフィスでできる、汗と臭いのセルフケア

では、臭いの対策はどうすればいいのでしょうか。

早めにリセットする

いちばんは、汗を放置しないことです。汗をかいたら、できるだけ早くタオルやシートで拭き取り、可能なら着替えましょう。臭いの元になる前に、汗そのものをこまめにリセットしてしまうイメージです。
筆者も屋外作業のあとは、衣類を一式着替えていました。汗でぬれた服は不快ですし、着替えがいちばん効果があったという実感があります。

臭いケアを習慣化する

自分の鼻は当てにならない、と割り切ることです。自分が臭くないか、そのつど感覚で確かめようとしても、慣れてしまっていてうまく判断できません。
だからこそ、「昼にいちど拭く」「午後に着替える」など、時間で区切ってケアを組み込んでおくと、気づけないぶんをカバーできます。

生活習慣を変える

図1に示されているように、日々の生活習慣も汗や臭いと無関係ではありません。

たとえば睡眠です。ある化粧品メーカーと大学の共同研究では、睡眠の状態が悪くなると、肌から出る臭い成分(ニンニク臭の主成分)の発生量が増えることが報告されています。*10

よく眠れば必ず臭いが消えるという単純な話ではありませんが、寝不足が臭いに影響しうる、というのは覚えておいて損はなさそうです。

日傘の活用も有効です。

帽子のみをかぶった場合と日射を99%以上カットする日傘を使った場合を比較すると、汗の量が約17%減ったという実験結果もあります。*11
かく汗そのものが減れば、それを放置して臭いの元になるリスクも低くなります。

近年、ニュースでも日傘を利用するサラリーマンが増えていると報道されていますが、暑さだけではなく臭いの観点から見てもメリットがあるのです。

臭いはゼロにならない

臭いを完全にゼロにしようとすると、かえってしんどくなります。汗は止められませんし、皮膚の細菌がいなくなることもありません。どちらも、生きていくうえで自然にそなわっているものだからです。

それを無理に消し去ろうとするより、うまく折り合いをつけていくほうが、心にも体にもやさしいのではないでしょうか。大事なのは、ゼロにすることではなく、気になりすぎない状態を無理なく保つことだと思います。

それに、「自分、におっていないかな?」と気にしている時点で、たいていの場合、そこまで深刻ではないものです。本当に無頓着な人は、そもそも気にしません。臭いに慣れて気づきにくいのは、あなただけでなく、まわりの人も同じです。お互いさまの部分も、きっとあります。この記事をここまで読んでくださったあなたは、もう十分に気を配れている側の人だと思います。

汗をかくのは、体がちゃんと働いている証拠でもあります。止めようと力むより、うまく付き合っていく。そのくらいの気持ちで、長引く夏を乗り切りましょう。

この記事を書いた人

田中ぱん

学生のころから地球環境や温暖化に興味があり、大学では環境科学を学ぶ。現在は、環境や農業に関する記事を中心に執筆。臭気判定士。におい・かおり環境協会会員。

参照

*1
出所)環境省「熱中症の予防方法と対処方法」
https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness.php

*2
出所)東海大学「汗はなぜ臭くなる?原因と対策をわかりやすく解説」
https://www.u-tokai.ac.jp/ud-science/news/15482/

*3
出所)公益社団法人 におい・かおり環境協会「国家資格 臭気判定士」
https://orea.or.jp/hanteishi/

*4
出所)環境省「令和6年度臭気判定士試験の結果について」 https://www.env.go.jp/press/press_04090.html

*5
出所)厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」P.1
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/dl/R06_kekka-1.pdf

*6
出所)国土交通省 報道発表「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について」P.1
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00105.html

*7
出所)加藤 綾「嗅覚受容体の脱感作と臭いへの順応 」におい・かおり環境学会誌 36巻3号 P.132
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jao/36/3/36_3_132/_pdf/-char/ja

*8
出所)日本医事新報社「加齢と嗅覚低下」
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_14548

*9
出所)公益社団法人 におい・かおり環境協会「嗅覚検査」https://orea.or.jp/hanteishi/kyukakukensa/

*10
出所)株式会社コーセー「よく眠れないと肌からのニンニク臭が増加することを発見」 https://koseholdings.co.jp/ja/kose/news/8778/

*11
出所)環境省「日傘の活用推進について」
https://www.env.go.jp/press/106813.html


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