そのBCP、富士山噴火まで想定していますか?企業が見直したい火山灰対策と防塵マスク

最近、企業では地震や豪雨を想定したBCP(事業継続計画)の整備が進みつつあります。

一方で、地震や豪雨への備えを進めている企業でも見落としやすいのが、「火山灰」への対策です。防災コンサルティングの現場でも、新たな課題として「火山灰災害」への備えが注目されています。

富士山などで大規模な噴火が起これば、都市部にも火山灰が降り、交通機関の停止や設備への影響などによって、企業活動に支障が生じる可能性があります。
さらに、細かな火山灰から従業員の健康を守るための対策も欠かせません。

そこで備えておきたいのが、防塵マスクなどの保護具です。しかし、従来の災害備蓄では、食料や飲料水などが中心となり、こうした保護具までは十分に検討されていないケースもあります。

本記事では、火山灰災害が企業活動に及ぼす影響を整理し、BCPの観点から、これからの備蓄として何が必要なのかを考えます。

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富士山が噴火したら?

日本には111の活火山がありますが、富士山はその1つです。*1
富士山が今後、噴火することは本当にあるのでしょうか。

過去の噴火

富士山山頂火口から東京都までの距離は、もっとも近い地点で約47 ㎞、もっとも遠い地点までは約115㎞です。

富士山噴火については、古文書に記録が残っており、信頼性が高いものだけでも781年以降10回の噴火が確認されています。

その中でも、遠く離れた江戸(現在の東京)にまで大きな影響を及ぼしたのが、1707年の「宝永噴火」です。当時の様子は多くの歴史資料に記録されています。
宝永噴火は、これまでの8,000年間に起きた富士山の噴火の中で、最大規模だったといわれています。

富士山の南東斜面で発生した噴火は、16日間にわたって断続的に続きました。
新たにできた火口からは火山礫や火山灰などが大量に噴き出し、偏西風に乗って東へ運ばれました。
火山灰は、現在の静岡県北東部から神奈川県北西部、東京都にかけて広く降り、さらに富士山から100km以上離れた房総半島にまで達しました。

「降灰分布図」

宝永噴火と同じ規模の噴火が富士山で起きた場合、東京都をはじめとする首都圏にも広い範囲で火山灰が降ると想定されます。

そこで国は、首都圏を含む広域での降灰対策を検討するため、2018年(平成30年)、「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」を設置しました。

このワーキンググループでは、降灰によってどの地域にどの程度の影響が及ぶのかを予測し、必要な対策を検討するための基礎資料として「降灰分布図」が作成されました(図1)。

図1 富士山大規模噴火時の首都圏における降灰の影響
図1 富士山大規模噴火時の首都圏における降灰の影響
出典)東京都「Tokyo富士山降灰 特設サイト>富士山の噴火を知る」
https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/fuji-eruption/

そこで想定された3つのケースのうち、東京都への影響が最も大きいケースでは、以下のような状況が想定されています。

多摩地域をはじめ、区部の大部分で2~10cm程度以上の降灰が発生
東京都内で除去が必要となる火山灰の量は、約1.2億㎥
対象地域全体では、除去が必要となる火山灰は約4.9億㎥(東日本大震災で発生した災害廃棄物量の10倍以上に相当)

ただし、実際に噴火が起きた場合は、風向きや噴火の規模、噴火が続く時間などによって、降灰する地域や量は大きく変わる可能性があります。

富士山が噴火したらどうなる?

富士山が噴火したらどのような状況が生じるのでしょうか。

火山灰の特徴

火山灰は、火山の噴火により放出される直径2mm未満の非常に小さな粒子です。*2
そのため、風に乗り遠くまで届いて、広い地域に降り積もります。

ガラス片・鉱物結晶からできているため、硬くとがっていて、湿ると電気を通したり、固まったりする性質があります。こうした特徴から、さまざまな被害をもたらします。

4つのステージと被害

次の表1は、降灰量を4つのステージに分け、被害の概要をまとめたものです。*3

表1 降灰量による被害の概要
表1 降灰量による被害の概要
出典)内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」p.9
https://www.bousai.go.jp/kazan/shiryo/pdf/honbun.pdf?utm_source=chatgpt.com

このように、富士山が噴火すると、降灰によってさまざまな被害が生じる可能性があります。

降灰による被害

従業員の就業中に火山灰が降った場合、どのような被害が生じるのか、より具体的にみていきましょう。*4

(1)帰宅や移動が困難になる

  • わずかな降灰でも、地上を走る鉄道が運行停止する可能性があります。
  • 道路では視界不良や渋滞が起こり、降灰量によっては車での移動が困難になります。
  • 以上のような状況が生じた場合、従業員がすぐに帰宅できず、職場にとどまらなければならないこともあり得ます。

(2)従業員の健康に影響する

  • 火山灰が目に入ると、痛みやかゆみ、充血などが起こることがあります。
  • 吸い込むと、鼻や喉の痛み、せき、息苦しさなどが生じる可能性があります。
  • 皮膚に付着すると、炎症や痛みなどが起こることがあります。

(3)停電や通信障害が生じる

  • 雨でぬれた火山灰が電気設備に付着すると、停電につながることがあります。
  • 電話の利用集中や、通信設備への火山灰の付着、停電などにより、電話やインターネットが使いにくくなる可能性があります。

(4)水道やトイレが使えなくなる

  • 火山灰による水質悪化や停電によって、水道の供給に支障が出ることがあります。
  • 下水管の詰まりや処理施設の停止により、トイレなどの使用が制限される可能性もあります。

(5)建物や設備に影響が出る

  • 火山灰が大量に積もると、建物の屋根などに負担がかかります。
  • 火山灰が空調設備の室外機などに入り込み、不具合が発生する可能性があります。

富士山が噴火したらどうする?

では、実際に富士山が噴火したらどうしたらいいのでしょうか。

噴火後、火山から離れた場所で降灰が始まるまでには、おおよそ20~30分程度、かかると考えられています(図2)。*5

図2 噴火から火山灰が積もるまでの展開
図2 噴火から火山灰が積もるまでの展開
出典)内閣府・気象庁「火山灰への備え」p.2
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sonae_kazanbai/leaflet_01.pdf?utm_source=chatgpt.com

降灰への対策はどのようなものでしょうか。タイミングや状況別にみていきましょう。

表3 降灰への対策

参考)内閣府・気象庁「火山灰への備え」p.3を参考にして筆者作成
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sonae_kazanbai/leaflet_01.pdf?utm_source=chatgpt.com

企業にもとめられるBCP

内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(2025年)では、企業がBCP(事業継続計画)に降灰時の対応を盛り込み、必要な物資を備蓄することが望ましいと記載されています。*3
あわせて、訓練の実施などを通じ、平時から安全確保に向けた準備を進めておくことの重要性も示されています。

従業員が帰宅困難になった場合の対応

広域降灰が発生すると、鉄道などの交通機関が運行を停止し、自力で帰宅できない人が多数発生する可能性があります。
こうした事態に備え、企業は従業員を一定期間、事業所内にとどめておくことを想定し、食料や飲料水など必要な物資を平時から備蓄しておくことが求められます。

また、降灰時は無理に一斉帰宅させるのではなく、降灰の状況や交通機関の復旧状況などを確認しながら、安全に移動できるタイミングを見極める必要があります。
降灰が落ち着いた後、除灰や物資輸送などの応急活動に影響しない範囲で、徒歩による分散帰宅を行うことも考えられます。

そのため企業では、従業員の一時待機や分散帰宅を想定し、「どのような場合に社内待機とするか」「いつ、どのように帰宅させるか」といった対応をあらかじめ決めておくことが重要です。

備蓄品

大規模な降灰が発生すれば、交通機関の停止によって、従業員が数日から1週間程度、帰宅できなくなる可能性もあります。食料などは最低3日分から1週間分を備蓄しましょう。*5

また、食料や飲料水などの備蓄に加え、火山灰という非常に細かい粒子から従業員の健康を守るための防塵マスクなどの保護具が欠かせません(図3)。

図3 富士山噴火をみすえた備蓄品
図3 富士山噴火をみすえた備蓄品
出典)内閣府・気象庁「火山灰への備え」p.4
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sonae_kazanbai/leaflet_01.pdf?utm_source=chatgpt.com

おわりに

企業のBCPは、自然災害の多様化を踏まえ、より多様なリスクを想定した内容へと見直しが進んでいます。

火山灰災害は発生頻度こそ高くありませんが、ひとたび起これば交通や物流が広域にわたって混乱し、企業活動にも長期間の影響を及ぼすおそれがあります。
そのため、現在の備蓄で十分か、防塵用品や待機期間を含めて見直すことが重要です。

企業には、降灰時にも従業員や施設利用者の安全を確保できるよう、平時から備えておくことが求められます。

この記事を書いた人

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
X:よこうちみほこFacebook:よこうちみほこ

参照

*1
東京都「Tokyo富士山降灰 特設サイト>富士山の噴火を知る」
https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/fuji-eruption/
*2
東京都「富士山が噴火したら・・・降灰に備える」p.2
https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/wp-content/uploads/2025/04/%E3%80%90%E6%9
*3
内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(2025年3月)p.9, pp.24-25
https://www.bousai.go.jp/kazan/shiryo/pdf/honbun.pdf?utm_source=chatgpt.com
*4
東京都「Tokyo富士山降灰 特設サイト>降灰による影響とは?」
https://www.fujisan-kouhai.metro.tokyo.lg.jp/damage/
*5
内閣府・気象庁「火山灰への備え」(2026年3月)p.2, 3, 4
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/sonae_kazanbai/leaflet_01.pdf?utm_source=chatgpt.com


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