従業員の幸福度を高め、生産性アップに欠かせない「タイムオフ」 オフィスに取り入れるためには?

休息しているときには脳は活動しない。そんなふうに考えがちだが、実はそうではないことがわかってきた。
休んでいるときには脳が活動しないのではなく、活発になる部位が変化するのだという。

その部分が活発になると、直感が冴え、創造力や問題解決のスキルがさまざまなところと結びつく。それだけではない。他者への共感も高まり、幸福感が増す。
リラックスする時間は、積極的に働く時間と同じくらい大切にしなければならないのだ。

重圧や期待から心と体を解き放つための、休息、内省、回復のための時間を「タイムオフ」と呼ぶ。
タイムオフは必ずしも「休暇を取ること」を意味しない。なるべく働かないようにするためのものではなく、時間の使い方を意識するものであって、オフィスにいても可能である。

というより、人間ならではのクリエイティビティを求められるAI時代のナレッジワーカーにとって、オフィスでのタイムオフこそ必要ではないだろうか。

タイムオフを通して、働き方とオフィスのあり方について考える。

タイムオフは日本生れ

タイムオフを提唱する『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(以下、『TIME OFF』)の著者の1人、マックス・フレンゼルさんがタイムオフの着想を得たのは、実は日本である。
しかも、この本は「日本のために書かれた」というのだ。*1

がんばって働いているのに

フレンゼルさんはかつてワーカホリックだった。*2
だが、その彼をしても、日本での仕事はハードだったという。*1

フレンゼルさんは来日後、東京大学での研究を経て、さまざまな企業に関わり、多様なクライアントとのプロジェクトに携わってきた。
どの職場でも、社員はみな忙しそうに長時間労働をしている。

ところが、それだけがんばって働いているというのに、日本の1時間あたりの労働生産性は、この50年というもの、G7の中で最下位である。また、OECD加盟38か国の中でも、順位が低い(図1)。*3

図1 国際的にみた日本の労働生産性
出所)公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023 概要」(2023年12月22日)p.3
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/summary2023.pdf

フレンゼルさんはこう述べている。

身も蓋もないことを言うようだが、企業も個人もすごく熱心に働いているのに、こんなに達成できていない場所は日本以外にない。仕事内容がそもそも必要なのかを立ち止まって考える時間さえ取らず、ただ働き続けているからだ。

ストレスと過労死

それだけではない。

厚生労働省が2023年に行った調査によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は実に82.7%に上る。*4
その主な内容は、「仕事の失敗、責任の発生等」が39.7%でもっとも割合が高く、次いで「仕事の量」が39.4%だ。

こうした状況は体の不調につながる。業務における過重な負荷により脳血管疾患または虚血性心疾患などを発症したとする労災請求件数は、2022年度は803件。そのうち労災支給決定(認定)件数は194件、うち54件がいわゆる「過労死」である。*5

タイムオフはなぜ必要なのか

休むことは仕事とは逆のことだと考えられがちだが、そうではない。
それはなぜだろう。

AI時代のナレッジワーカーに必要な力

単純作業からナレッジワーク(知的労働)への移行はさまざまな葛藤を産んでいる。
ナレッジワークは、労働の成果を目で見ることが難しい。アイディアは見えないし、触れることもできない。

そこで、私たちは忙しさを成果の指標にしがちだ。どれほど忙しいかを測るのは、生産性やクリエイティビティをきちんと評価するより手っ取り早いからだ。
しかも、忙しければ、なんの成果もないのに達成感を覚えることもあるし、上司や同僚からも評価してもらいやすい。

ナレッジワークが成果を産むためには、忙しさではなく、その逆の、思慮深い取り組みが必要だ。
ロボットやAIが担うようになる単純作業の生産性と、多面的でクリエイティブな仕事の生産性では、成果の出方が違う。
ナレッジワーカーにとっての8時間労働は、産業労働者にとっての16時間労働と同等だという指摘さえある。

現在はAIの登場により、「タスク処理」という意味での仕事は、価値を失い始めている。*2
AI時代のナレッジワーカーに必要なのは、戦略である。*1
強力なツールとしてAIを使いこなし、人間らしい仕事をすることにこそ活路が見出せる。

加えて、人間には他者に共感する力がある。AIには理解できないものにも、思いやりを持つことができる。人間のやりとりや関係づくりに、共感は欠かせない。

AIにはもてない、人間ならではの力がAI時代のナレッジワーカーには求められているのだ。
その力をより強化するのが、タイムオフなのである。

休息は人間らしい力の源泉

休息しているとき脳の力は発揮されないと、長い間考えられてきた。

しかし、神経学者が脳画像解析技術を使って脳活動を観察したところ、予想外の事実が判明した。休息しているときには、脳が活動しなくなるのではなく、活発になる部位が変化するというのだ。

休んでいるときに活発になる脳の部位は「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる。
研究が進み、デフォルトモードネットワークの活動は、知能、共感、感情的判断、メンタルヘルスなどと強く結びついていることがわかった。
このことから、休息は、健康、成長、生産性に欠かせないものだということが、科学的にも認識されている。

デフォルトモードネットワークが活発になると、直感が冴え、創造力や問題解決のスキルがさまざまなところと結びつく。
実際に、クリエイティブな人たちのデフォルトネットワークは発達しているという。

息を吸うための「労働倫理」、吐くための「休息倫理」

『TIME OFF』は、休息倫理の重要性を説いている。
著者は、労働倫理と休息倫理はコインの裏表のような関係であるという。

働くことは息を吸うことであり、休むことは吸った息を吐き出すこと。ずっと息を吸い続けることはできないし、きちんと息を吐き切れば、次はより深く吸える。

そして、働くために労働倫理が必要なように、休むためにも休息倫理が必要であると説く。
仕事で大切なのは、量や忙しさではなく、質の方だ。
過度なストレスにさらされ、燃え尽きかけている人たちから、素晴らしいアイディアなど出てくるはずがない。

一方で、しっかりした休息倫理があれば、インスピレーションやアイディア、力が湧くと著者はいう。
では、休息倫理とはどのようなものだろう。

休息倫理のポイントは時間の使い方

休息倫理とは必ずしも「休暇を取ること」ではない。
なるべく働かないようにするためのものではなく、重要なのは、時間の使い方だというのが著者の主張だ。

たとえば、アメリカのネット通販企業「タワー・パドル・ボーイズ」は、2015年に5時間制を導入したが、CEOのステファン・アーストル氏はその結果に驚いたという。*6
勤務時間は休憩なしで午前8時から午後1時までだった。従業員全員が午後を自由に過ごすためにアウトプットを最大化することに集中した。その結果、会社の売上高は50%増になったのだ。

あえて時間制限を設けることで、隠れていた生産性を見つけることができたともいえる。
1日の労働時間を5時間にすると、従業員の生産性とウェルビーイングのどちらも向上することが研究で明らかになっている。*6

アーストル氏は、「幸せだと生産性も上がる。より少ない時間でやると、時間を大切に使うようになる」と述べている。
同社では、趣味や仕事以外の活動も禁じないで、むしろ奨励しているという。
積極的に奨励するほど離職率も低くなる。

タイムオフが可能になれば、起業家精神やボランティア精神、コミュニティを思いやる活動につながり、社員はそこから多くを学べる。おまけにそうした経験を通して、スキルも経験も得られる。

ただし、1日5時間労働にはデメリットもある。多くのことを短時間でやり遂げようとすると、ひとりで黙々と働く時間が増えるという。それでは、職場でのコミュニケーションが損なわれてしまう。
バランスをとること、目的意識をもつことは、タイムオフにおいて重要である。

タイムオフを可能にするオフィスとは

タイムオフの効果的な形は人それぞれである。*1
また同じ人であっても、そのときどきによって、タイムオフの形は異なるだろう。
多様な社員の多様なタイムオフを可能にするオフィスとはどのようなものだろうか。

仕事のためのスペースは、固定にするのか、それともその日の気分や業務内容に合わせて席を選べるフリーアドレスにするのかという選択がある。

フリーアドレスにした場合、オフィスの中央に、仕事にもリフレッシュスペースとしても使えるエリアがあれば便利だろう。

図2 オフィス中央に位置する、仕事と休憩どちらもできるカフェスペース

リフレッシュするための場所もさまざまだ。
たとえば、読書や昼寝のための静かな個室。
好きな飲み物やおやつが用意されたカフェ。
運動ができるスペースや気分転換のためのゲームコーナー。
気の合った人とコミュニケーションできるスペース……。

オフィスデザインにも工夫が必要だろう。
採光や照明、音楽の有無、スペースの広さは用途に合わせて調整する。
観葉植物を置いて自然が感じられるようにしたり、アート作品を展示したり……。

景色を眺めながら仕事や休憩ができるカウンター席があれば、仕事の合間に目を休めたり、しばらく休憩したりと、使い勝手がいい。

図3 景色を眺めながら仕事・休憩ができるカウンター席

リフレッシュするには、遊び心も必要である。
斬新なデザインのテーブルやカラフルなチェアを備えた、こんな休憩スペースがあれば、気分転換にもってこいだろう。

図4 卓球台の形をした休憩スペース

オフィス環境の改善には、実際に働く社員の意見を聞くことも必要だ。
そして、社員のニーズに合わせて、定期的に見直す。

タイムオフは、オフィスで働く人の幸福度をアップさせエンゲージメントを高める。それだけでなく、生産性を向上させ、創造性を刺激する。
そのためのコストには、それ以上のリターンが見込めるのだ。

これを機に、タイムオフという観点を含めたオフィスづくりを検討してみてはいかがだろうか。

資料一覧】
*1
出所)ジョン・フィッチ マックス・フレンゼル 著 ローリングホフ育未 訳『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(2023)株式会社クロスメディア・パブリッシング発行 株式会社インプレス発売 p.2,4,24-26,28,72-73,85,127-129,386-387,399-401 
    

*2
出所)クロスメディアグループ株式会社 PR TIMES「【米国Amazonベストセラー日本上陸】新刊『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』本日発売! AI時代の人類に必要な“人間的な力”を高めるためのビジネス書」

*3
出所)公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023 概要」(2023年12月22日)p.3

*4
出所)厚生労働省「令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概要」(2024年6月25日)p.15

*5
出所)「令和2年度    我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況(案)」p.44

*6
出所)産経新聞「仕事の効率を高める「5時間労働」の利点と、実践して見えた課題」(2021/7/24)

この記事を書いた人

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
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